バッキー&ハリーの地団駄はツイストで

〈お好み焼 吉野〉 075-551-2026/京都市東山区大和大路通塩小路下ル上池田町546

バッキーさん吉野

下町とともに育まれた、ライク・ア・ベイク。

 15歳の頃から58歳の今まで三ヶ月も開けることなくずっと通い続けられる店があるというのはどれほど有り難いことなんだろう。
  それが松屋でも王将でもサイゼリヤでも素晴らしいことだと思うが、チェーン店は残念ながらお店の人が変わっていくので40年前、30年前、20年前、10年前、去年、ちょっと前、昨日の移ろいを共有出来ることはない。
 そう考えると学生服を着ていた俺にお好み焼きを焼いてくれて、ビールを浴びるように飲んでいたハタチの頃にスジ焼のスジを大盛りにしてくれて、イタリアもんの服を着て行っていたバブルの頃も、たくさんの仕事仲間を連れて行っていた時も、58歳になった今も「イノウエ君」と呼び続けてくれる人がいる店。
 それが俺の場合、お好み焼き屋の「吉野」。うれしくて正味、泣けてくる。
 この連載を一緒にやっているハリーと初めて吉野を取材したのは34、5年前。ホットドッグプレスのデートブックかミーツ・リージョナルの前身のシティ・マニュアルという雑誌だったはずだ。モノクロのページだったが吉野のおかあさんはまるでお好み焼き屋を演じる女優のようだった。
 三十三間堂の裏手にあたる塩小路大和大路の猫がたむろしている路地の中のお好み焼き屋が全国版のデートブックに登場して以来、店を取り巻く様相は変わっていったけれど、おかあさんも店の設えもメニューも何も変わったことはない。今も猫のいる路地を入って暖簾をくぐれば焦げたソースの匂いが充満する中からカチャカチャとおかあさんが大きな鉄板の上でテコを振る音が聞こえてくる。
 時代の移ろいも街の変化もなにもかもお好み焼きのホソ、イカ、スジ、油カスの全部入りに含めてソースをたっぷりかけて食ってしまえばいいのだ。
 お好み焼きは「ライク・ア・ベイク」。愛するものも過ぎた時代も全部入れてギトギトに焼いて花カツオをまぶせば、まるでアホな俺達を笑っているかのように花カツオがお好み焼きの上で揺れている。
 今、店で野口五郎の「私鉄沿線」がかかっているがお好み焼きに別れ話は似合わない。恨みつらみも似合わない。汗と酒と大きな笑い声が似合う料理なのだ。
 さあ、町田義人の「戦士の休息」を聞きながらこの街が編み出した「ゴキゲンのライク・ア・ベイク」をいただきに行こう。

Photo by ハリー中西
日本を食べまわる写真家。茶色い食べ物をこよなく愛する。吉野で焼きそば“野菜抜き”を注文しておかあさんに怒られるかわいい一面も。

Text by バッキー井上
京漬物屋店主で酒場ライター。子どもの頃の憧れでお好み焼きは玉子多め。うどんを入れるのは、そばよりお腹がふくれる気がするから。