バッキー&ハリーの地団駄はツイストで

〈焼き肉・塩ホルモン アジェ 木屋町団栗店〉 075-371-2727/京都市下京区木屋町団栗下ル東側

バッキーさんアジェ

懐の深い焼肉屋には、喧噪の中に静けさがある。

 あれは二十数年前だった。よく一緒に飲み食いをしていた仲間が「今度焼肉屋やるし来てな」と底抜けの笑顔で言ってきたので、裏寺の焼肉屋の名店「陽気」に勝てるんかいなと思いながらも「あいつのことやし多分うまいもんだしよるんやろな」とオープンの当日ワクワクして行った。
  その当時はほとんど人通りのなかった木屋町松原の古い会館の中のカウンター10席ほどの小さな店だった。
 「おー、来たで。ほんで豚足あるんけ」とマスターに言うと「当たり前ですやん今日も指ギトギトですわ」と笑ったので豚足マニアの俺もヒクヒク笑った。
 そして酒と生ものと豚足のあとの焼き物のトップバッター的に注文することが多いタン塩を見て衝撃を受けた。上質のタンにネギと玉ネギのみじん切りがビッシリ乗っていて、タンをあぶる程度に焼き上に乗ったネギをタンで包むように食べると強烈にうまかったしそれは料理のようだった。
 俺は焼肉屋に行くと肉をカンテキに乗せてあったまったくらいでパクパク食べるので一緒に行った奴に「もうチョット焼かなあかんのちゃう」とよく言われるのでいつもそこで人類の歴史を語り始めてしまう。
 要するに人間は火を使って肉を食べるようになった年月より生で食べていた時の方が10倍ぐらい長いのだという論を展開しながら半生でパクパク食べるのだ。何の話をしているんだ俺は。
 タン塩を半生で食べているとマスターが「井上さん次、ホソ食べてみてください」と言うのでいただくと、見たことのないようなピンク色の綺麗なホソが出てきて「おー」と声を出したのを今も覚えている。それをタレではなく塩で食べると言うことにも半生派の家元の俺を喜ばせた。それがアジェに初めて行った時のことだった。
 開店のお祝いをしていなかったので一週間後に行った時に「たまらんアジェ」「木屋町松原・焼肉アジェ」とだけ大きく書いた名刺サイズのショップカードを300枚ほど印刷してお祝いのプレゼントにした。
 そしてオープンからほどなくしてアジェは多くの焼肉通を唸らせて大人気店になった。大人気店になるとなかなか入りにくいので最近は遅がけの時間に団栗橋店にひとりで行って並ミノとウルテとキムチだけでコップ酒を飲み続ける。どじょう汁がある日はそれでチャミスルを飲む。
 焼肉屋は大勢で行って笑いながら食うのもいいが、ひとりで行って泣いて飲む方がいいと俺は思っている。喧噪があればあるほど静かに飲める場所でもあるからだ。アジェは懐が深い焼肉屋だと思う。

Photo by ハリー中西
日本を食べまわる写真家。焼肉オン ザ ライスがやっぱり好き。最近ICOCAを手に入れて、公共交通機関での移動がピッとスムーズになった。

Text by バッキー井上
京漬物屋店主で酒場ライター。焼肉をほぼ生で食するスタイルは、同行者が本気で不安になるレベル。焼肉店でもビールは最初のひと口だけ。